インターネット時代の学習 講師 柏原 昭博

現在,インターネットが提供するWWW(World Wide Web)には,非常に多くの情報リソースが提供されており,その中には学習向けの(あるいは学習する価値のある)ホ ームページも数多く公開されています.また,自分のPCをインターネットに接続し,時間的・空間的な制約なしにアクセスできる環境を誰もが手にするようになり,それとともに学習リソースを活用する機会がますます増えています.こうしたWWWの活用は,今後の情報ネットワーク社会における学習・教育のあり方に新しい方向性を与えるものとして大きな期待が寄せられています.

 一方,インターネット環境下における学習では,学習する側の主体性が非常に重要となります.つまり,学習者自身が学習目標を設定し,WWWから必要な教材を選択するとともに,学習リソース内において学ぶべきページやその順序を決めながら,教材に対する理解を自らが作り上げることが必要となります.このような主体的学習を進める能力は,伝統的な学習・教育理念でもその重要性が謳われていますが,今後の情報ネットワーク社会ではさらにその重要性・必要性は増大し,人として備えなければならない必要不可欠な学習能力ということになるでしょう.しかしながら,主体的な学習を支援する環境は十分に整備されていないのが現状です.本稿では,インターネット環境における学習の問題を考えながら,どのような支援環境が必要となってくるのかについて私見を述べてみたいと思います.

 WWWにおける学習リソースを用いた学習の問題点は,次の二つに集約して考えることができます.

(a) 膨大な数の学習リソースからいかに学習目的にあったリソースを選択するか?
(b) 学習リソースが提供するハイパー空間をいかに探究し,教材に対する理解を作り上げるか?

 WWWには,同一の教材内容を様々な観点から記述した多種多様の学習リソースが存在しており,これらをうまく活用することでその教材内容の学習を深めることができます.特に,基本的な知識の獲得から定着まで,いくつかの学び方(学習フェイズ)で学習することができます.このことが,WWWにおける学習の最大の特徴であると言えます.しかしながら,学習リソースには,「何を」・「いかに」学ぶことができるかが明記されていない場合が非常に多いのです.現在,WWW上には「何を」学ぶことができるかを表すインデックス(例えば,教科・単元,学年など)をもとに,学習リソースを集めたリンク集が提供されていますが,「いかに」学ぶことができるのかに関する情報が与えられていません.現状では,WWWにおける学習の特徴を活かすような学習リソースの選択は極めて困難であると言えます.こうした問題を解決するためには,「いかに学べるか」を表すインデックス(学習フェイズ,教材表現メディアの種類,学習者とのコミュニケーションチャンネルなど)を加えて,WWW上の学習リソースをデータベース化することが必要となるでしょう.

 さて,次に(b)の問題について考えてみます.学習リソースは,通常Webページおよびページ間のリンクからなるハイパー空間を構成しています.学習者は,この空間内で探究すべきページを選択しながら,教材に対する知識を自ら積み上げていくことになります.本メディアでは,学ぶべき内容が順番に並べられていて,通常その順にそっていけば比較的容易に知識を得ることができるわけですが,学習リソースの場合学ぶ順序を自分で決めなければなりません.順序が変われば,得られる知識構造も異なったものとなります.そのため,学習者は自分の見方で学習を進めることができますが,現在のページから先を見通すことができず,次に探究すべきページの選択(ナビゲーション)に行き詰まりが生じたり,探究が進むにつれて何を・何故たどってきたのかが不明瞭になり,しばしば知識の積み上げに行き詰まりが生じたりします.こうした探究学習の難しさを解決するために,ハイパーメディアシステムの研究分野では,様々な支援方法が提案されていますが,支援を行うのに不可欠となるページ間の意味的関係がWWW上の既存リソースでは必ずしも明確でなく,WWW上に既存のリソースには有効に機能しないことが考えられます.したがって,教材構造(ページ間の意味的関係)が明記されていないような悪条件でも,ナビゲーション支援および探究過程の再考支援の方法を新たに考える必要があります.

 以上のようなWWWにおける主体的学習の支援環境を整備することは,今後の情報ネットワーク社会において注目される遠隔学習・生涯学習の実現に向けて非常に重要であると考えられます.筆者が属する研究グループでも,主体的学習の局面ごとに必要な学習教材をWWWから選択し,用意された学習支援ツールを適宜使いながら学習を進めることができる環境としてLearningBenchを開発しております.ホームページ(http://www.ai. sanken.osaka-u.ac.jp/)で公開する予定ですので,一度使ってみてください.

応用物理学専攻 協力講座〈産業科学研究所〉