ドイツを訪れて… 教育システム情報学会Vol.13, No.3, pp.185-186 (1996)

ドイツ連邦共和国にある,情報技術に関する国立研究所(GMD)に滞在して約3カ 月が過ぎようとしています.GMDには,いくつかの研究機関があるのですが(http://www.gmd.deにて概要を見ることができます.),私はそのうちBonn郊外のSankt Augustinにある研究機関FIT(英語で言うと,Institute for Applied Information Technologyの略に相当します.)に属しています.緑に囲まれた丘の上にあり,所内にはお城(Schloss Birlinghoven)まであって,ヨーロッパ情緒を感じさせる研究所です.

 GMD-FITに滞在するきっかけは,国際会議User Modeling ’94 (UM-94),UM-96でのKobsa教授との出会いでした.Kobsa教授は,User Modeling Shellの他,HCIに関する研究を幅広く行われており,この分野では非常に著名な方でもあります.国際会議で,いろいろと研究に関してお話する中,今回の滞在をお願いし,快諾をいただいた次第です.

 さて,滞在している期間もまだ短く,すべてを把握したわけではありませんが,GMD-FIT,とりわけHCIグループで垣間みたドイツ研究者の研究観,研究姿勢をお話しさせていただきます.

 このHCIグループは,Kobsa教授を中心に約40人の研究者で構成されています.いくつかの研究プロジェクトが並行して行われていますが,GMD単独で行うというよりも,パートナーを広く募集し,共同研究という形で進める場合がほとんどのようです.国立の研究所ということで研究費に困らないということもあると思いますが,例えば心臓の動きを可視化して,診断を支援するシステムの開発では,診断の専門家を有する大学の機関やシステムを評価する専門家,実際にプログラミングする方などをパートナーとして,研究開発を進めています.そのため,研究室内には,先の40人の研究者の他にも,いろいろな方が出入りしています.国籍も豊かです.GMDは,基本的に情報工学(コンピュータ技術)の立場からプロジェクトに関わり,それ以外はそれぞれの専門家から知恵を借りるという姿勢です.ただし,リーダシップはGMDがとっています.また,感心することは,出来上がるシステムは非常に完成度が高いことです.学問的な価値については一概に言えませんが,とにかく「きっちり作って見せる」,そして「きっちり評価する」ことを信条にしているようです.ドイツ人の真面目さが出ているのかも知れません.こちらへ来て,いくつかの研究を見せていただく機会がありましたが,必ずデモンストレーションをしてくれ,心臓の動きのアニメーションなどは非常にリアルでした.

 また,個々のプロジェクトが全く独立して動いているわけでなく,相互の成果を積極的に共有しようとする姿勢が感じられます.例えば,GUI構築支援ツールを作るプロジェクトがあるのですが,これがUser Modeling Shellを使った教育支援システムのGUI設計に用いられたりしています.論文の中にも,そのことがちゃんと明記されており,研究室全体でHCIをやっていこうとする一貫した姿勢が感じられます.こういうことをしようとすれば,当然プロトタイプでは許されず,実際に稼働するものをつくらなければならないということです.さらに,現実問題を対象として,ものをきっちり作り,その作る過程に新たな課題を見い出し,次のプロジェクトにつなげていくという,積み上げる姿勢も見逃せないところです.

 ただ,学問的なオリジナリティーという点で,疑問が残るような研究もあります.アメリカのように,新しいパラダイム・新しい概念にどうアプローチしていくかは,未だ不透明ですが,滞在予定の残り7カ月間かけて,勉強させていただきたいと思います.また,HCIグループではメディア技術を用いた教育支援システムを開発するプロジェクトが立ち上がろうとしていますので,できるだけ関わっていきたいと思っています.いずれ機会があれば,報告させていただきたいと思います.
(E-mail: kasihara@ai.sanken.osaka-u.ac.jp)